Takenobu Igarashi A-Z
Editorial, Graphics
五十嵐威暢氏の
アルファベットの世界を紐解く。
Mission
Thames & Hudson(T&H)は建築やデザインなど、美術系の出版物で知られる英国の出版社。2017年、同社はクラウドファンディング型の出版事業 「Volume」新設に際し、その2冊目の企画として1970年代から1994年まで独自のデザイン活動を展開し、現在は彫刻家として活動している五十嵐威暢氏に参加を依頼しました。同氏は本の編集とデザイン、そしてT&Hとの進行管理役をデザイン史家・研究家の野見山桜氏とグラフィックデザイナーの森治樹を指名し、プロジェクトはスタートしました。
Solution
Volumeの依頼に対して、五十嵐氏はデザイナーとして活動していた時代のアルファベット作品をテーマにした本を提案。同氏が所有する資料や記事、版下、スケッチなど、今まで世に出ていなかった膨大なアーカイヴを新たに撮影し、五十嵐氏へのインタビューを繰り返して、野見山氏、森、そして五十嵐本人と議論を重ねて本の骨格が出来上がっていきました。
1970年代半ばにアクソノメトリック図法による作品を発表して以降、グラフィックや彫刻など、様々な形でアルファベットの26文字を追求し続けた五十嵐氏。タイポグラフィーをデザインから芸術作品へと高めた五十嵐氏の数々のアルファベット作品と、スケッチや版下などの貴重な資料、そして野見山の8つのエッセーがその稀有なデザイン活動と思考を紐解いていきます。完成したTakenobu Igarashi A-Zはビジュアルブックとしても、アイディアソースとしても、またデザインに携わらない人びとにとっても充分に楽しめる本に仕上がり、2020年9月に出版されました。
「ロンドンの出版社Thames & Hudsonから作品集の出版のお話をいただいた際、立体アルファベットに的を絞った書籍を提案し、出版企画が決まりました。しかし、アルファベットの作品集が既に海外で出版されていたため、見せ方に工夫が必要でした。
そこで、僕は本の素材となる作品や関連資料の新たな写真撮影なども含めて、編集、デザイン、レイアウト全てを信頼できる第三者に委ねることにし、テキストと編集は野見山桜さんに、構成とブックデザインを森治樹さんに依頼しました。お二人は出版社と緊密な共同作業を英語で積み重ねて、ご覧のように素晴らしい書籍にまとめてくれました。満足と感謝で心が一杯です。」
五十嵐威暢
「五十嵐威暢さんの3Dタイポグラフィーの奥深さを本という形状で表すにはどんな編集がいいのか、どんな言葉を紡げばいいのか、始めは大変頭を悩ませました。しかし、五十嵐さん、森さんとの対話を重ねるうちにその輪郭がはっきりし、AからZというアルファベット順で構成する姿へと発展していきました。膨大な数の作品があるからこそ可能でしたし、その多様性を示すには適した方法だったと思います。各所に散りばめられたキーワードやエッセイも、アルファベット順に緩やかに従って配置されています。 」
野見山 桜 編集者/ライター